溶けたチョコレートが体のラインに沿って脇に滑っていく跡を、藤堂はねっとりと舌で追いかけてくる。
全体を押しつけるのではなく、細めた先で軽く肌を突きながら刺激してくるのだ。微妙なもどかしさに、自然と腰が弾んでしまう。
「なんだ、赤井。やけに積極的じゃねえか」
熱い吐息で肌を掠めながら、喉の奥でくくくと笑い、胸の突起を指で摘み上げてきた。
「あ」
敏感になった乳首は、引っ張られるだけで堪えられないほどの快感を生む。さらに指の腹で押しつけられ、こねられていると、そこが固くなりぷくりと膨れ上がっていく。
「固くなってるの、わかるか?」
藤堂が確認してくるのは、ずっといじっている胸のことじゃない。デニムの下で快感を訴えている俺自身だ。邪魔な布越しに擦り上げ、反応を確かめている。
「藤堂……それ、イヤだ」
曖昧だが強烈な刺激に、おかしくなりそうだった。
「これだけ固くしておいて、何がイヤなんだ? 感じてるんだろう? 素直に自分の感情を受け入れろ」
言葉と同時に強く下肢を捕まれる。指が食い込んだ場所から、ドクドクという脈動が全身に伝わってくる。いつも以上に感じている。藤堂が欲しくてたまらない。
「藤堂……」
「そんな目で見てもダメだ。して欲しいことがあるなら、はっきり言ってみろ」
耳元に口を寄せ、耳殻をぺろりと嘗められる。ぴちゃりという水音に、欲望を煽られる。そしてゆったり下肢を撫でられて、体の内側から獰猛な快楽が溢れてきそうになる。
「ホントに、イヤ、だ……もう……」
「もう、なんだ? やめろと言うならやめるぞ?」
高ぶった場所が痛いぐらい固くなっているのを知っていて、藤堂はわざとらしくその手を放していく。愛撫されなくても内腿や膝が揺れてしまう。
「イヤ、だ……」
「だから、何がイヤなのか言ってみろって」
「……意地悪だ」
上目遣いに藤堂を睨みつける。でもそのぐらいでは藤堂は表情を変えたりしない。
「そんなの前からわかってたことだろう?」
それこそ開き直った言葉に、ダメージを食らうのは俺のほうだ。
「暖めて欲しいと言ったのはお前だ」
「そうだよ。暖めて欲しいとは言ったけど、意地悪して欲しいなんて言ってない」
「知らないのか? 俺の中で「暖めて欲しい」と「意地悪して欲しい」は同意語なんだ」
「な……っ」
そんな都合のいい解釈、聞いたことがない。
「文句言う前に、素直になれって」
「あ……っ」
鎖骨の辺りに歯を立てられ、ぐっと下肢を掴まれる。そして舌全体を肌に押しつけながら指に力を込められる。じわりじわり全身に広がっていた快感が急激に脳天まで突き抜けていく感覚に、背筋を大きく弓なりに逸らした。
「ああああ……」
一気に高まる悦楽に、頭の中が瞬間、真っ白になった。
泣き出したい衝動に駆られ、視界が潤んでくる。解き放ちたいのに解き放てない。ぎりぎりまで追いつめられてなお高みに向けて追い立てられる感覚に、体中が疼いている。
頭を左右に振り腰を捩り上下させる。もどかしさから藤堂の腕にしがみつき、腰を浮かせていく。
微かに触れる藤堂自身も、俺に負けないぐらい固くなっている。何枚も重なる布越しに伝わる熱を感じて、さらに煽られる。
「藤堂……ホントに、もう、ダメ」
「だから、どうして欲しいか言えよ」
この状態でも藤堂は俺の言葉を待っている。何もかもわかっているくせに。俺のしてほしいことなど、俺以上に知ってるくせに。
「……欲しい」
「何が?」
眼鏡の奥の瞳が鈍く光る。ぺろりと己の唇を嘗める舌の生々しい動きと感触に、背筋がぞくりと震え上がる。藤堂の視線と口調、声音に仕草のすべてに、翻弄され魅せられ満たされている。
「……藤堂が欲しい」
直に触れて触れられるよりも、藤堂自身を感じたい。
火傷しそうな灼熱を身の内に感じて、その熱に溶かされたい。さっき体に押しつけられ溶けてしまったチョコレートのように、甘く熱くどろどろになって藤堂に飲み込まれてしまいたい衝動に駆られる。
「どこに?」
執拗に体を嘗め上げながら問われる。小さな舌の突起のひとつひとつが、淫らな快感を生み出していく。
「ここ、か」
乳首をいじっていた指が腹へ移動し、服の中で浅ましく収縮するそこを刺激してくる。軽く上下させ中心に突き立てるが如く動きに、藤堂自身を挿入されたときの感覚を想像して、ぎゅっと窄めてしまう。
でもそこには何もなく、満たされない快楽に体が戦慄く。熱い肉が欲しい。熟れた俺の体の内側を擦り上げ、淫らな熱を生み出してほしい。
自分では絶対得ることのない、そして自分一人ではたどり着くことのない、至上の快楽が欲しい。
「そこ」
小さい声で頷く。
「ここにどうする?」
「藤堂のものを、挿れて欲しい」
羞恥をかなぐり捨てて、己の欲望をはっきりと口にすると、藤堂が満足そうに笑った。
「……いやらしいな、赤井。そんなに俺が欲しいのか」
誰のせいで、こんなになったのか。
口を突きそうになる文句をぐっと堪える。
「欲しいよ、藤堂が」
今はただ早く藤堂が欲しい。出口のないままに体を走り抜ける欲望を発散せたい。藤堂と抱き合い、彼の温もりを感じて、何も考えられなくなりたい。
「……それなら、俺がその気になるようにしてくれ」
藤堂は俺の髪をぐっと握り、己の下肢へと導く。下ろされたパンツのファスナーの間から導き出される藤堂自身を目にした刹那、俺は無意識に唾液を飲み干していた。
そしてチョコレートより熱く甘い藤堂のものを嘗めるために、俺はそっと舌を伸ばした。