蒼山に、落ち着き払った様子で言われると、もっともだと思えてくる。気分を落ち着かせようと、俺は冷めてきたコーヒーに口をつけた。
ことの発端は、八月の頭。
大学の映画研究会を対象としたコンペティションの場で、そのコンペの審査員を務めていたとある映画監督に声を掛けられたことから始まる。
俺たちの作品は、名称は異なるものの、参加賞しか取れなかった。けれどラッキーなことに、彼の目に留まり、十一月にある別のコンペに出品しないかと持ちかけられたのだ。
日程的に厳しく、所属する映画研究会の人間の手をほとんど借りられなかった。俺は脚本と監督を担当し、蒼山はカメラマン。
今回撮ろうと思っている作品を考えると、男優に女優、さらには音響担当と大道具や照明をサポートしてくれる人間の、最低四人は必要だった。
だから俺たちは大学の掲示板やインターネット、さらには人の伝を使ってスタッフを集めたのだ。
そのスタッフ全員との、初顔合わせが今日──個別に会ってはいても、全員揃うのは初めてだ。
「何もやる前から、心配してもしょうがない。いつもの瞭なら、そう言うんじゃないか?」
「そう、だね」
灰皿に落ちる煙草の灰を見つめ、俺は頷いた。
高校時代からの友人である蒼山は、映画についてとても真剣だ。将来、なんらかの形で映画の仕事で食べて行きたいと思っている。そんな蒼山の気持ちを知っているから、今回の映画に、俺はプレッシャーを感じている。
でも、蒼山の言うとおりだ。何も始まっていない今からナーバスになっていてもしょうがない。
それぞれの個性が集まったところでどんなひとつのまとまりになるか、不安に思うよりも期待しよう。
「なんて言いつつ、俺もまるで気がかりがないわけじゃないんだが…」
「え……」
蒼山の台詞の意味を確認しようと思ったとき、店の扉につけられたカウベルがカラカラと鳴って、客がやってきたことを知らせる。
「いらっしゃいませ」
カウンターの中からマスターが静かに挨拶をする。額に浮かぶ汗をハンカチで拭いながら店内を見回しているのは、佐倉遥だ。蒼山は彼女の顔を見ると、吸い刺しの煙草を灰皿に押しつけて火を消した。