2.

「修平は修平じゃないか」
「答えを誤魔化すな」
「修平っ」

 腕を捉えられ、そのまま仰向けにベッドに押し倒されていく。両手をベッドに縫いつけられた状態で、俺は蒼山の顔を見つめる。

「俺は言ったはずだ。こんな関係を心から望んでいるわけじゃない。だが、お前のことがずっと好きで好きで……お前に触れられるのならば、すべてを受け入れようと思った」

 苦しげに蒼山は呻く。

「それがすべて藤堂の思惑通りだとしても、俺にとって瞭を抱く術は、他に思い浮かばなかったんだ」

 蒼山の、俺に対する気持ちが痛い。
 知らないわけじゃなかった。

 蒼山が向ける瞳。優しい眼差し。そして、言葉。気心の知れた友人だからではない、その瞳に奥に隠された想いに、気づかないふりをしていた。
 それを蒼山もわかっていた。だからずっと口にすることはなく、二人で映画を作り、大学の間は夢を食べながら生きていく道を選んでいた。
 あの島へ行くことがなければきっと、俺たちの関係は変わらなかった。だが、以前のままの関係で、ずっといられたのだろうか。

「──瞭」

 静かに、顔が近づいてくる。

「修平……っ、やめろ」
「やめない。藤堂が瞭から手を引かない限り、俺もやめたりしない」
「ん──っ」

 噛みつくようなキスに、息苦しくなる。顔を左右に振っても許されない。激しいキスをしながら、蒼山はゆっくり俺の上に跨ってくる。ジーンズ越しにも高ぶっているのがわかる下半身を、痛いぐらいに押しつけられる。

「や……、修平、あ……っ」

 喉元を嘗められる。

「俺にやめさせたければ、藤堂もやめさせろ──」
「それは無理だな」

 部屋に漂う紫煙と嘲笑うその口調に、二人して動きを止める。蒼山の背中越しに、扉に背を預けこちらを窺う男の顔が見える。

「藤堂……」
「いい度胸だな、蒼山。人の目を盗んで、二人だけで赤井と楽しもうとしていたのか?」

 藤堂の髪が、微かに濡れているようだった。シャツの前のボタンも、そしてジーンズの前も開いただらしない状態で、手には缶ビールを持っていた。

「悪いか」

 蒼山は開き直ったかのように言うと、ベッドを下りる。無造作に顔を覆っていた髪をかき上げ、眉を寄せたままの不機嫌な顔を藤堂に向ける。

「瞭はお前のものじゃない。俺たちが二人で何をしようが勝手だろう?」
「よく言うぜ」

 煙草を指の間に挟み、ビールを一口含みながら藤堂はふっと笑う。

「何がだ」
「たった今まで二人で何を喋ってたか、俺が知らねえとでも思ってるのか?」

 煙草をもう一度吸いながら真っ直ぐ蒼山の前まで歩くと、短くなった煙草の先端をベッドサイドに置いてある吸い殻で押し潰す。軽く力を入れて折れ曲がるその煙草に、なぜか自分の姿が重なった。

「なあ、蒼山」

 前屈みになった状態で、藤堂は蒼山の顔を下から仰ぎ見る。眼鏡越しに覗く瞳の奥で、冷ややかな光が輝いて見える。するっと伸ばした手が、蒼山の細い顎に添えられる。そこを指の腹で味わうように辿っていく様を追いかけて、俺はなぜか背筋がぞくりとした。
 蒼山をねめつける藤堂の視線に、強烈なまでの艶を感じてしまう。

「あいにくだが、俺はこの関係から身を引くつもりはない。蒼山が何を言おうと」

 藤堂の視線が、やがて俺に向けられる。空になっただろう缶を手近な場所に置く。

「赤井が、嫌がろうとも、な」

 藤堂がベッドに膝を置いたことで、スプリングが軋む。伸びてきた手が、俺の足首を掴む。そしてなんの躊躇もなく、脛を嘗め上げる。

「あ……っ」

 慣らされた体は、微かな刺激で敏感に反応してしまう。慌てて口を手で押さえたところで、すでに甘い声は藤堂の耳に届いている。

「──というよりは、赤井の体が俺を忘れたりはしないと思うが」

 揶揄するように言って、藤堂の手がそろそろと上がってくる。もどかしい指の動きに、それだけで背筋がぞくぞくして体が小刻みに震えてしまう。

「藤堂。やめてくれ」
「ここでやめて困るのは自分だってわかってて言ってるのか?」

 俺の位置からは、蒼山がどんな顔をしているのかわからない。けれど、彼の視線を痛いほどに感じる。